出展者特集記事

【量子科学技術研究開発機構】
ダイヤモンド量子センサ技術を開拓 ~生体ナノ量子センサや自動車搭載電池の動的評価等の新しい応用展開へ道を拓く~

2023年12月27日

QST

量子科学技術研究開発機構(National Institutes for Quantum Science and Technology:QST)は2016年に発足した新しい国立研究開発法人で、量子技術基盤研究部門、量子生命・医学部門、量子エネルギー部門の3部門からなる。国内に7研究拠点、総人員1,300名で、量子科学技術の基礎研究から社会実装まで取り組んでいる。QSTは国が推進する量子技術イノベーション拠点の一つで、量子技術基盤と量子生命科学を重点テーマに掲げ、量子人材の育成も含め産業界との連携を強化している。今回は、以下の5つのキーワードで、QSTの最新技術を紹介する;
① 生体ナノ量子センサ
② 超偏極MRI/NMR技術
③ 量子構造解析技術
④ 抗酸化物質の量子化学的設計
⑤ デモ機による量子センサの実演
本紹介記事では、量子技術基盤研究部門から出展の量子センサの原理・特徴とその最新応用展開例(⑤)と、量子生命・医学部門から出展のQSTが世界をリードする生体ナノ量子センサー(①)を紹介する。

図1 : ダイヤモンド中のNVセンサー

1. 量子センサの原理と特徴、応用例

ダイヤモンド結晶中に窒素(N)を不純物としてイオン注入して熱処理を施すと、図1に示すように炭素(C:黄色)が規則正しく配列した結晶構造の中に窒素(赤色)と空孔(Cが抜けた孔)が隣り合う“NV(Nitrogen-Vacancy)センター”ができる。NV センターが持つ電子スピン(微小な磁石)は磁場や温度などの変化に敏感に反応する。その敏感性を利用したのが量子センサである。
図2に量子センサの原理を示す。ダイヤモンドのNVセンターにマイクロ波を印加した状態で緑色のレーザー光を入射すると、赤色の蛍光が放出される(図2左上)。マイクロ波の周波数を掃引すると、スピン共鳴周波数(2.87 GHz)で発光強度が暗くなるディップが現れる(図2右上)。この共鳴周波数は磁場や温度に依存するので、ディップ周波数の変化からNVセンター周辺の磁場や温度など様々な物理量の計測が可能である(図2下段)。
量子センサは、高空間分解能、超高感度、室温で計測可能という特長をもつ。展示ブース(小間:4V-21)では、量子センサのハンディ型デモ機を使って、磁石からの磁場を計測する実演を行う。
量子センサの応用例として、電気自動車(EV)搭載電池の高精度な充放電測定を展示する。これは文部科学省の光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)の成果で(*)、東京工業大学を中心とした研究チームが開発した量子センサを用いてEV搭載電池からの充放電電流を10 mAの精度で-1,000~+1,000 Aの広い範囲をモニタする。EV車の航続距離を伸ばし、さらには電池軽量化に寄与する。
(*) https://www.titech.ac.jp/news/2022/064800

図2 : 量子センサの原理(光検出磁気共鳴)

2. 生体ナノ量子センサ

前章で紹介したダイヤモンド中のNVセンターを利用した量子センサをナノサイズに小型化し、生体の細胞レベルのセンシングに応用したものが“生体ナノ量子センサ”である。量子センサを使って細胞内の微小なエリアにおける温度・pH・硬さ・膜電位など物理化学的情報をナノメートルオーダーの分解能で計測することで、生命現象を細胞レベルで明らかにしていく。細胞レベルのセンシングが実現すると、例えば、認知症では原因となる変性たんぱく質の凝集がどのように起こっているのか、また再生医療ではiPS細胞をシャーレ上に最適条件で培養するにはどうしたらよいか、など医療をはじめとする様々な分野で“生体ナノ量子センサ”が役に立つ。
図3は、ナノダイヤモンドセンサを幹細胞内に導入して、細胞内の温度分布を計測した例である。図3左のシャーレ上に幹細胞を培養し、培養液中に蛍光ナノダイヤモンド(FND; 5 nm – 100 nm)を含む分散液を滴下すると、24時間後には図中央のように直径約10 µmの幹細胞内(細胞内の中央部黒色は核)に多数のFNDが導入される(図では4つ描かれているが、実際には数100個)。図3右は、倒立型共焦点顕微鏡にシャーレをセットして、緑色レーザー光を照射してナノダイヤモンドの蛍光を励起し、同時にマイクロ波(2.80~2.92 GHz)を掃引し、NVセンターの電子スピンを共鳴させる。ナノダイヤモンド1つ1つからの赤色蛍光を対物レンズを通して検出(=場所を特定)すると同時に、共鳴周波数を検出(=温度を計測)することで、1細胞内での温度分布を正確にセンシングできる。温度可変の恒温板を利用し、様々な温度でセンシングしたところ、培養温度に応じて幹細胞の再生因子産生能が変化する結果が示された。再生医療に向けては、最適温度に制御して幹細胞を効率的に培養することが重要であることを明らかにした。
QSTの展示ブースでは、広範な産業分野の方々と交流して量子センサの様々な応用可能性を探りたいとしている。また、量子技術の実用化を促進する量子人材の教育プログラムが来年度からスタートするので、来場者の皆様には今回の展示がそのトリガーになればと期待している。

図3 : ナノダイヤモンドセンサによる幹細胞内温度の計測

(註)図はすべてQSTから提供された。

小間番号 : 4V-21

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